大判例

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京都地方裁判所 昭和29年(ワ)928号 判決

原告 伊藤忠商事株式会社

被告 山本薬品株式会社

一、主  文

被告は原告に対し別紙目録<省略>記載不動産に対する京都地方法務局昭和二十五年二月二十四日受付第二三一三号原因同年同月同日仮登記仮処分命令取得者原告なる所有権移転請求権保全仮登記の所有権移転本登記手続をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、昭和二十五年二月十一日当時既に支払期日の到来していた原告が被告に対して有する機械売掛代金並に融通資金合計金二百十二万円の債権につき、被告がその担保の目的で被告所有の別紙目録記載の不動産を原告に譲渡することを条件に、その支払の猶予を求めたので、原告はこれに応じ同日大阪法務局所属大阪市東区北浜三丁目十一番地公証人城栄太郎公証人役場で更第四千八百三十六号債務承認並に履行に関する契約公正証書を以て、被告は昭和二十五年三月より同年八月迄、毎月末日に金十七万円宛、同年九月末日迄に残額を夫々弁済し、右弁済確保の為、被告は同年二月一日付期間三ケ月の額面金百三十二万円並に金八十万円の二通の約束手形を原告に振出す。原告は被告より本件不動産の所有権を取得する契約をしたが、その所有権移転本登記は、被告が債務を履行しないときにすることとし、売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記手続を速かにする。且つ被告は本件不動産には所有権の完全性を害する抵当権等の設定登記がないことを確保し今後も原告の権利を害すべき行為をしないこととし右所有権移転登記に必要な一切の書類を原告に交付する。もし被告がこの契約条項の一つにでも違背すると、期限の利益を失い、直ちに債務を完済すること、等を内容とする契約を締結した。

然るに被告は本件不動産の所有権移転請求権保全の仮登記申請手続をしないので、原告は昭和二十五年二月二十四日、その仮登記仮処分命令を申請したところ同日京都地方裁判所の右命令が発せられその登記を完了した。

更に被告は約束手形の振出もなさず登記に要する書類も交付しないし又本件不動産に金三十万円の債権を担保する抵当権設定登記があつた等の契約違反があつたので、期限の利益を失い原告の被告に対する右公正証書を以て約した債権の弁済期が到来しその履行をしないから本件不動産の所有権移転本登記手続をなすべく原告は昭和二十五年四月二十日、京都地方裁判所に本件不動産に対する所有権移転登記申請手続請求の訴を提起し同庁同年(ワ)第三四一号事件として繋属したが翌二十六年七月十六日原告勝訴の判決言渡があり確定した。ところが、原告はこの訴訟の請求の趣旨に於て前述の所有権移転請求権保全の仮登記仮処分命令に因る所有権移転本登記申請手続を請求しないで、独立の所有権移転登記申請手続を求め請求原因に於ても又仮登記に因る旨を主張しなかつた為折角勝訴判決を得ながら仮登記処分に因る所有権移転本登記ができないので、更に本訴に及んだと述べ被告の答弁に対し京都地方裁判所昭和二十五年(ワ)第三四一号の前訴と本件とはその請求趣旨原因を異にするから二重訴訟にはならない、と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の訴を却下するとの判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実は認めるが、本件は同一物に対する以前の判決と利益が抵触し、新な利益の請求ではないと述べた。<立証省略>

三、理  由

原告主張の請求原因事実は全部被告の認めて争わないところである。そこで原告の本訴請求が原告主張の当庁昭和二十五年(ワ)第三四一号事件の確定判決と同一訴訟であるかどうか、及び原告の本訴請求をなす利益の有無の点につき判断するに、原告の本訴請求は之を要するに昭和二十五年二月一日公証人城栄太郎作成更第四八三六号債務承認並に履行に関する契約公正証書に基き、原告は被告との間に原告主張のような契約を締結し、この契約より生じた所有権移転請求権を保全するため、昭和二十五年二月二十四日当庁に仮登記処分命令を申請し右命令が発せられその登記を完了した。然るに被告には前記公正契約により定めた条項に違反する事実があり約旨によつて右物件の所有権は原告に帰し所有権移転本登記をなすべき時期が到来したので、原告は当庁に昭和二五年(ワ)第三四一号事件を提起し原告勝訴の判決が確定したか、右は前記仮処分命令による仮登記を本登記に改めるための請求ではなく独立の所有権移転登記申請手続を求める訴訟であつたため、右仮登記を本登記に改めることができないから本訴請求をなすというのであるが、成立に争のない甲第二号証の一及び二によれば、原告主張の右当庁昭和二五年(ワ)第三四一号事件に於て原告は被告に対し本訴物件と同一物件を昭和二十五年二月十一日被告より原告の被告に対する債権担保の為め譲受ける契約をなし、この契約に基き右物件の所有権を取得したことを請求原因となし、この事実が認められて右原告の請求が認容せられ原告勝訴の判決が確定した事実を認め得べく、右前訴と本訴とは当事者、目的物件に於て同一なるのみならずその所有権取得の原因も昭和二十五年二月十一日の原被告間の契約に基因するものであるから、前訴も本訴も共に原被告間の同日付契約に基因する被告より原告えの本件物件の所有権移転に基く登記請求権を訴訟物としているものと認めることをうべく、両訴訟は全く同一の訴訟であるといわねばならない。よつて原告は前訴の確定判決の既判力の効果を受け原則としてこれと同一の本訴を提起するの利益を有しないものといわねばならない。併しながら確定判決の既判力は新な事情の発生がない限りこれと牴触する裁判をなしえない点に於て裁判所をも拘束するものであるが、必しも再訴を絶体に禁ずるものではなく何等か具体的な利益があれば再びこれと同一内容の裁判を繰返してなすことを許容するものである。よつて原告が本訴をなすにつき右の利益の有無を判断するに、凡そ登記官吏はわが成法の下に於てはいわゆる形式的審査権を有するにすぎないのであつていわゆる実質的審査権を有しない。而して形式的審査権と実質的審査権の区別せられる主要なる標準は前者が特定の限定せられた資料に基き登記申請の適否を決するに反し後者が不特定の限定せられない資料に基き登記申請原因事実の真否を判断するところにありとせられている。よつて形式的審査主義をとるわが不動産登記法の下に於ては曩になされた仮処分登記命令による仮登記を本登記に改めるに際り、その本登記申請が本案判決を登記原因とする単独申請である場合には、厳に右判決書自体に(必しも主文に掲げられることを要しないがその主文と理由とを綜合して)於て当該申請の本登記が右の仮登記を本登記に改める趣旨なることを明に看取しうる場合であらねばならない。これを本件につき見るに、成立に争のない甲第二号証の一乃至三によれば原告主張の仮登記は登記簿上受付昭和二十五年二月二十四日第三一三号、原因同年同月同日仮登記仮処分命令、取得者として原告会社を表示せられているに止るに対し前訴判決(当庁昭和二五年(ワ)第三四一号)にはその主文に於て「被告は原告に(両者共本訴と同一)対し別紙目録記載不動産(本訴物件と同一)につき所有権移転登記手続をしなければならない」とあり又その理由中に「昭和二十五年二月十一日被告は原告に対しその債権担保の目的で被告所有の本件不動産を原告に譲渡し、原告はその所有権を取得した」旨認定せられているが、この判決のみを以てしては前記仮登記により保全せられる所有権移転請求権に因り原告が所有権を取得した事実を看取するに十分でない。畢竟この判決を登記原因とする申請行為によつては原告は前記仮登記に基き本登記をするという目的を遂げることができないものというの外はない。そして右仮登記がなされた昭和二十五年二月二十四日以降現在迄の間に本訴不動産上に第三者のため抵当権や賃借権の設定登記がなされていることは甲第二号証の一乃至三に徴し明かであるから、仮登記に基く本登記をなすと独立の本登記をなすとではその間に原告の利益に雲泥の相違のあることはいう迄もないところである。それならば原告はこのような場合には結局に於て前訴と同一訴訟ではあるが前記仮登記に基く本登記をうる為めの本訴を提起する利益を有するものというべく又成立に争のない甲第二号証の四によれば、前記仮登記は昭和二十五年二月十一日付本件公正契約に基く本訴物件の所有権移転請求権を保全する為の仮登記なることが明かであるから、この契約に基因し原告が既に所有権を取得したこと当事者間に争のない本件に於て被告は右仮登記に基く所有権移転本登記をなすべき義務のあるのは勿論であつて、原告の本訴請求は理由があるものとしてこれを認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 宅間達彦)

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